生育歴の聴取

今回は生育歴の聴取の際に、心がけると良いと思われることを挙げてみます。なお、今の時代、実際に養育する方は様々ですが(お父さんであったり、おばあちゃんであったり、施設のスタッフってこともありますよね)、そういう方達の子供を育む役割を総称して、”お母さん”と記しますね。


何故そのことを聞くのか?

生育歴で何を聞くか、と言うのは、様々な教科書に書いてありますし、施設によってはテンプレートがあるかもしれません。生育歴は、何を聞くのかも大事ですが、何故そのことを聞くのか、というあたりも理解して聴取できると良いのかな、と思います。生育歴を聴取するというのは、単に発達の指標をチェックする、発達障害圏の診断をする、というだけではありませんよね。その子とお母さんやお父さん、その他の家族、周囲の方達が、今までどのような道のりを歩んできたのか、ということを総合的に理解する営みであり、これからどのように歩んでいくのか、というのを考えるための重要な材料でもあります。理想的な生育歴聴取は、そこから物語(ナラティブ)が浮かび上がってくるイメージでしょうか。そのためには、聴取する一つ一つの項目に含まれている意味や物語を大事にしながら聴取できるといいのかな、と思います。生育歴聴取を通して、子どもさんとお母さんをしっかりコンテインすることを目標にしましょう。


お母さんと子どもとの関係

お母さんと子どもさんとの関係がどんな感じだったのかな・・・?ということ。子どもさんの養育で大事だな、と思うことに、『ゆとり』とか『程良さ good enough』があります。それは、単に事実関係を聴取していても、なかなか浮かび上がってきませんよね。お母さんがどんな想いで子どもさんと接していたんだろう、ということを想像しながら聴く必要があります。そのためには、お母さんが子どもさんのことを語る時の表情や口調、仕草、などのノンバーバルなメッセージにも気をつけてみると、幼少期の母子関係がなんとなく見えてきます。「ああ、お母さん、本当に色々あって大変だったんだろうけど、時間を見つけて、子どもと丁寧に関わってたんだな」とか。そういうやりとりを想像しながら、いわゆる幼少期の愛着関係(アタッチメント)を評価していくのが重要かな、と思います。

もう一つ、見逃してはならないのは、お母さんが語る時の子どもさんの様子。お母さんの話を聞きながら「そんなことあったの?」と、少し微笑みながらお母さんに聞いて、母子のやりとりが展開される時もあれば、お母さんが子どもさんの小さい頃のことを愛おしそうに大事そうに話す姿を見て「ああ、お母さんって、私のこと大事に見てくれたんだな」と、ちょっと嬉しそうな表情を浮かべることもあります。そのやりとりが精神療法的だな、と思うことがあります。


子どもさんを取り巻く周囲の環境

子どもさんの発達は周囲との相互的な反応で進んでいきます。幼少期の子どもさんの周囲の環境がどうだったのか、というのは重要な情報かなと思います。周囲にどんな人達がいたのかもそうですが、質というか、内容というか、どんな環境だったのか、というのも大事ですよね。例えば、周囲にたくさんの大人がいても、子どもさんに無関心で、誰も気にかけていなかった、ということもありますし、周囲には大人は少なかったけど、子どもさんに皆が深く関わっていたということもあります。

また、成長発達の一つ一つの出来事が、どのような周囲との相互のやり取りがあったのか、ということも聞いてみると良いかもしれません。例えば、始語については、単に言語発達の指標という意味だけではなく、その子が言葉を通して社会と繋がることができるようになった重要な出来事であり、人が社会生活を送るための重要な象徴機能を獲得したということでもありますよね。どんな言葉を最初に発したのか、それはどんな状況だったのか、周囲はどんな風に感じたのか、その言葉を通して、どんな風なやりとりが行われたのか・・・・等々。例えば、ようやく言葉が出て、周囲は本当に本当に嬉しく感じたと、いう場合もあれば、他の子に比べて遅く感じて発達が遅いのではないかと焦った、という場合もあるかもしれません。単に発達の指標を順番に聴取するだけでなく、「その時、どう思われましたか?」「みなさん、どう感じられたのですか?」なんてことも聞いてみると良いのかな、と思います。

うめぼしの会

児童精神診療・研究に日々携わっている専門家の集まりです。心の問題を抱えた子どもや家族、彼らの支援者をサポートするために活動していきます。いまは準備段階ですが、われわれの実務経験をもとにして何ができるか考えているところです。

0コメント

  • 1000 / 1000